ビーズ細工とは

ビーズ細工の歴史

ビーズとは「穴のあいた珠(たま)」の総称で、素材は石、骨、植物の種、貝殻、ガラス、プラスチックなど様々です。ビーズの語源は、アングロサクソン語やオランダ語の「祈る人」から来ていると言われ、古くから神々を祭る儀式の道具、神聖なものとして崇められていました。時代とともに権力、富の象徴と変化し、大航海時代には貨幣として用いられました。
バッグ、民族衣裳、宝飾品などに加工するビーズ細工そのものが、古い歴史を持っており、何世紀にもわたり、世界中のあらゆる民族がビーズと糸だけを使い、複雑なパターンを創造して来ました。使われているビーズの素材、用途、細工の仕方によって、いろいろなビーズ細工がどこのものかすぐわかることも多いのです。最古のビーズ工芸として知られているものは、10万年前の貝殻細工です。
日本では古墳の中から発掘されており、女性の装飾品や護符として珍重されていたようです。ガラスの勾玉が作られるようになったのは、弥生時代中期からと言われ、正倉院には数十万個ものガラス玉が、貴重な資料として大切に収められています。
日本には、江戸時代にも交易のあったオランダ・中国を通してヴェネチアやオランダのビーズ製造技術が伝わったと言われています。江戸中期の文献には「オランダ玉」「舶来玉」と記載されています。江戸時代に作られた玉は「江戸とんぼ玉」といわれ、根付、帯締め、髪飾り、帯留め、器物の紐飾り等の様々な装飾に用いられました。
弊社のビーズ刺繍に使われている日本製のガラスビーズは、管引きビーズ(シードビーズ)と呼ばれるもので、シード(種子)のように小さいことから名づけられたものです。形が揃っていること、発色が美しく、20000種以上とバリエーションが豊富であることから、世界的にも最高級とされています。

ビーズ工芸品

実用を兼ねたビーズハンドバッグそのものは16世紀後半からビーズ製造技術の向上に伴い、ヨーロッパで作られていたようです。一方、6世紀仏教の伝来と共に中国から繍仏(刺繍を施した仏)として入ってきたのが日本刺繍の起こりと言われています。
今のような形の日本製のシードビーズが作られるようになったのは、戦後間もなくの昭和20年代初頭と言われており、それまでは海外から輸入されたビーズバッグの修理などを請け負いながらビーズ刺繍の構造を学んだ職人たちが舶来のビーズを使って試行錯誤する中で、より滑らかで堅牢な仕上がりを求め、伝統的な日本刺繍と融合させたのではないかと思われます。

柏ビーズの手法

柏ビーズの初代もそのようにビーズ刺繍の技術を習得した職人の一人です。浅草の老舗高級和装小物店での修業を経て、昭和11年(1936年)に独立した初代は、修業時代に交流のあった日本刺繍の刺繍工から日本刺繍の技術を学び、修理を持ち込まれた舶来のビーズバッグからビーズバッグの作りを学び、当初製造していた布製の袋物に応用しました。当時高級品として人気を博していたビーズバッグの美しさに魅せられ、それまで作っていた布製の袋物にビーズ刺繍を施すことを思いついたのです。
日本刺繍の応用であるビーズ刺繍の手法は、職人の試行錯誤の中で2粒ずつが定着したと想像できます。日本のマーケットでは、堅牢さと衣類を傷めない高品質が求められるため、より手間はかかるが美しい仕上がりの2粒ずつ縫い付けるという技法が選ばれたものと思われます。直径1.4㎜から1.9㎜の細かいビーズを2粒ずつ丁寧に縫い付けて刺繍しています。
ちなみに、中国を含めた東南アジアでは3~5粒ずつ留める手法が一般的です。その方が手間がかからず早くできるが、3~5粒で留めると間のビーズが浮きやすく糸がループ状にほつれて傷みやすいのです。また、中国や東南アジアで使っているビーズは弊社で使用している日本製ビーズよりも少し大きく形が不揃いです。

柏ビーズのバッグ

柄の細かさ、使っている色の数、ビーズの大きさによっても差があるので一概には言えませんが、比較的シンプルな柄で職人が一日に刺繍できるのがハガキ代の大きさです。
デザイン、ビーズ選び、仕立までフルオーダーで承る場合は、途中デザインや刺繍の確認など、お客様とご相談しながら進めてまいりますので、通常半年から一年くらいのお時間をいただいています。
デザインから型紙おこし、刺繍、縫製、仕上げまで全てできることが弊社の強味ですので、お客様のご希望により細かくお応えできるオーダーメイドにも今後さらに力を入れて行きたいと思っています。

お手入れ

特に選んだ丈夫なカタン糸を二本通して、手縫いにより丹念に仕上げています。
お手入れは、軽くブラッシングされた後乾いた布で拭いますと、手汗などの汚れがとれて、いつまでもつやつやと美しく御覧頂けます。
保存の際は、型崩れを防ぐために紙芯をつめて箱に入れて保存してください。
尚、防虫剤等のご使用は変色の原因にもなりますので、一切ご無用でございます。

柏ビーズについて

昭和11年(1936年)、東京浅草でハンドバッグの製造、販売店として創業。その後、昭和24年(1949年)も本社を千葉県柏市に本社を移転。弛まぬものづくりへ情熱とこだわりが実を結び、平成5年(1993年)より、【千葉県指定伝統的工芸品】に指定されました。
創業以来80年、高品質の国産グラスビーズをふんだんに使用し、日本刺繍独特の手工芸技法を駆使して、気品と実用性を備えた製品作りを心掛けてまいりました。
平成26年(2014年)、二代目仙田秀一(現会長)が厚生労働大臣より、卓越した技能者【現代の名工】を拝受、また、平成27年(2015年)、【黄綬褒章】を拝受致しました。
弊社では、製造に関する作業を全て一貫して自社で行っています。
主な商品は、ハンドバッグ、ガマ口、財布、眼鏡入れ、草履です。また、個別で御誂え品も製造しています。
一針一針に職人の魂をこめて制作しております。
どうぞ、末永くご愛用くださいますよう、お願い申し上げます。

職人紹介

初代  仙田鎮男
昭和11年(1936年) 創業

二代目 仙田秀一
平成 5年(1993年)『千葉県の卓越した技能賞』拝受
平成26年(2014年)『現代の名工』拝受
平成27年(2015年)『黄綬褒章』拝受

三代目 仙田和雅
平成17年(2005年)代表取締役就任

岸本ムツ子
平成23年(2011年)『千葉県の卓越した技能賞』拝受

参考文献:
「世界のビーズ文化図鑑 − 民族が織りなす模様と色の魔術」
キャロライン・クラブトゥリー、パム・スタールブラス著  福井正子翻訳